健康経営 データ分析
ホワイト500の境界を越えた会社に、何が見えていたか
同じ一般認定から出発した会社を、健康経営度調査のフィードバックシート5年分(2022〜2026年認定)で追う
2026年10月5日にLinkedInで公開した記事を、数表と集計方法を加えて再構成しました。
このレポートの要点
- 2026年のホワイト500は501法人で、そのうち108法人は前年に一般認定でした。毎年およそ2割が入れ替わり、その枠に一般認定の会社が入っています。
- 一般認定の会社全体で比べると、翌年ホワイト500に入った会社は施策が従業員に広く届き、経営会議で健康経営の効果や外部からの評価を議題にしていました。
- 前年の偏差値が近い会社どうしで比べると、前年の時点の差はほとんどありません。差が出たのはその年の伸びで、3回の比較とも同じ向きでした。
- 自由記述の書き方の差は、点数の近い会社どうしではほぼ消えました。
- ここで見えるのは制度上の境界を越える会社の特徴です。健康状態が良くなる会社の特徴や、取り組みが認定を変える効果は示していません。
- 108法人 2026年ホワイト500(501法人)のうち、前年は一般認定だった法人
- 74.5〜81.7% 前年のホワイト500が翌年も残る割合(2022〜2026年)
- +9.9対+2.5 境界の近くの会社で、健康教育の参加カバー率が1年で伸びた幅(ポイント)
- 7.0対4.1 経営会議で扱った健康経営の議題の数(8項目中・2024年認定)
この記事では、健康経営優良法人(大規模法人部門)のうち、ホワイト500に選ばれなかった法人を「一般認定」と呼びます。前年までホワイト500で、その年はホワイト500から外れて健康経営優良法人の認定だけになった法人も、一般認定に含めます。
比べる相手の置き方
健康経営優良法人を取ったばかりの会社と、ホワイト500の常連を比べれば差があるのは当然です。認定の年数も、社内の体制も、開示に慣れた度合いも違います。ホワイト500と一般認定を比べた資料は支援会社などからも出ており、水準の差が並んでいます。しかし、その差がどこから来るのかは分かりません。
このレポートでは、前年に同じ一般認定だった会社を翌年の結果で分けます。翌年にホワイト500へ入った会社と、翌年も一般認定だった会社です。前年の時点で目に見える違いがあったのか、それともその年に何かが動いたのかを確かめます。
健康経営が成熟すると会社の中で何が変わるかを見るための集計です。ホワイト500を取る方法として読まないでほしいと考えています。
毎年入れ替わる約100の枠
2026年のホワイト500は501法人でした。うち388法人は前年もホワイト500で、108法人は前年に一般認定でした。5法人は前年の一覧にありません。
前年のホワイト500が翌年も残る割合は、2022年から2026年の各年で74.5%から81.7%でした。毎年およそ2割が入れ替わり、その枠に一般認定から90〜108法人が入ります。2022年のホワイト500は497法人で、そのうち2026年まで5年続けて選ばれたのは214法人でした。
| 認定年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2026年 |
|---|---|---|---|---|
| 法人数 | 91 | 90 | 92 | 108 |
経済産業省の認定法人一覧から集計しました。
使ったデータ
フィードバックシートは、健康経営度調査に回答した法人へ返される資料です。評価の偏差値と、回答内容の一部が載ります。施策の参加率、経営会議の議題、自由記述などです。公開されているのは、開示に同意した法人の分だけです。このレポートは集計値だけを扱い、シートの文章や図、個社の数値は載せていません。
シートに載る参加率や会議回数は、認定年の2年前の年度の実績です。例えば2024年認定のシートは2022年度の実績を示します。以降は両年のシートを比べられた法人を扱うため、法人数は上の数より少なく、項目ごとにも少しずつ違います。
前年に一般認定だった法人を、翌年の結果で二つに分けました。翌年ホワイト500に入った群を「新規群」、翌年も一般認定だった群を「一般認定継続群」と呼びます。
健康教育の届き方
参加カバー率は、対象者の割合と参加率を掛けた値です。全従業員のうち実際に参加した人の割合にあたります。従業員1,000人の会社で、対象者が全員、参加率が72%なら720人に届いた計算です。対象者を管理職だけにすると、参加率が100%でも届く人数は大きく減ります。健康教育には、生活習慣病や睡眠のセミナー、eラーニング、新入社員研修での健康講話などがあります。
2025年認定と2026年認定のシートを比べました。新規群は93法人、一般認定継続群は1,695法人です。新規群の参加カバー率は62.7%から71.7%へ上がりました。一般認定継続群は45.0%から47.5%でした。内訳では、対象範囲と参加率の両方が上がっています。
境界の近くにいた会社だけで比べる
前年の偏差値が一般認定の上位1割に入る法人に絞りました。偏差値の平均は両群とも約60です。2025年認定から2026年認定にかけて、翌年入った69法人と入らなかった126法人を比べます。
健康教育の参加カバー率は、翌年入った群で61.6%から71.5%へ上がりました。入らなかった群は58.6%から61.1%でした。前年の水準の差ははっきりせず、伸びは9.9ポイント対2.5ポイントでした。
| 比較した期間(認定年) | 翌年入った群 | 入らなかった群 |
|---|---|---|
| 2023年→2024年 | +13.1 | +2.3 |
| 2024年→2025年 | +14.4 | +3.6 |
| 2025年→2026年 | +9.9 | +2.5 |
前年の偏差値が一般認定の上位1割の法人。上位2割に広げても、前年の水準の差は小さく、伸びに差が出ました。
3回とも同じ向きです。境界の近くでは、前年の時点で目に見える違いはほとんどありません。境界を越えた会社は、その年に施策の届く範囲を広げていました。ただし当年の値は当年の評価に含まれます。伸びたから選ばれたのか、選ばれる評価の中身そのものなのかは区別できません。
運動の取り組みの届き方
運動は、従業員が参加する運動施策の参加カバー率を見ます。2025年から設問が従業員参加と環境整備に分かれたため、2025年認定から2026年認定の変化だけを使います。運動施策の例は、ウォーキングイベント、始業前の体操、スポーツ施設の補助などです。
新規群の参加カバー率は43.4%から52.8%へ上がりました。一般認定継続群は30.5%から32.8%でした。2026年認定のシートでは、全従業員の半分に届くかどうかが二つの群の違いとして表れています。
運動は健康教育より届いている割合が低めです。イベントを開いても、参加は本人の希望に任されることが多いからだと私は考えます。そのため、対象範囲と、対象者が参加できる条件を分けて確認します。
境界の近くでは、運動の参加カバー率は前年46.6%対41.0%、伸びは7.0ポイント対4.2ポイントでした。健康教育ほどはっきりした差ではなく、前年の水準も伸びも差ははっきりしません。
経営会議で扱う議題
経営レベルの会議で、その項目を議題にした法人の割合を2023年認定から2024年認定で比べます。新規群は79法人、一般認定継続群は1,379法人です。調査票の選択肢には8つの議題が並びます。差が大きかった4つを、会議で話す中身に言い換えると次のとおりです。
- 取り組みと効果のつながり どの施策がどの健康指標を通じてどの経営課題に役立つと考えているかを一枚にまとめた図(戦略マップ)を、会議で確かめます。
- 業務パフォーマンスや経営課題への効果 例えば睡眠の対策を始めた後に仕事への支障が減ったかを見て、施策を続けるかを話します。
- 外部からの評価 認定の取得状況や、応募者や投資家からの反応を報告します。
- 対外的な発信 投資家との対話や求人のPRで、健康経営をどう説明するかを決めます。
| 議題 | 新規群(79法人) | 一般認定継続群(1,379法人) |
|---|---|---|
| 取り組みと効果のつながり(戦略マップなど) | 80% → 99% | 45% → 54% |
| 業務パフォーマンスや経営課題への効果 | 78% → 97% | 33% → 45% |
| 外部からの評価(認定・IR・採用) | 71% → 97% | 30% → 42% |
| 対外的な発信(投資家との対話・求人) | 43% → 82% | 20% → 29% |
| 議題にした項目の数(8項目中・当年) | 7.0 | 4.1 |
議題の比較は2023年認定から2024年認定だけです。2025年から設問が変わりました。
会議の回数は議題とは別の設問で、2025年認定でも比べられます。取締役会以外の経営レベルの会議で健康経営を議題にした回数は、2024年認定から2025年認定で、新規群が年10.2回から14.1回に増えました。一般認定継続群は7.3回から7.6回でした。
境界の近くでは、議題の項目数を見ます。2023年認定から2024年認定にかけて、翌年入った58法人と入らなかった90法人です。前年の項目数は5.9対6.0でほぼ同じで、当年は6.9対6.3でした。伸びは約1項目対0.3項目です。会議の回数は、2024年認定から2025年認定で前年10.9回対11.7回とほぼ同じで、伸びは3.4回対ほぼ0回でした。2023年から2024年は差がありませんでした。
因果関係は分かりません。それでも、経営レベルで何を議論しているかには、二つの群の間ではっきりした差がありました。外部からの評価や投資家との対話を会議で扱うことは、開示と結びつけた議論に近いと私は考えます。健康経営を開示と一体で扱うことの重要性を示す傍証かもしれません。
自由記述に出てくる言葉の5年間
対象の欄は、重点を置いている具体的な施策とその効果です。毎年ほぼ同じ形式の欄で、各社が自分の言葉で課題、取り組み、効果を書きます。エンゲージメントは仕事への前向きな関わりです。プレゼンティーイズムは、健康上の問題で、出勤していても仕事の効率が落ちている状態を指します。
ホワイト500の会社では、エンゲージメントを書いた会社が9.3%から19.6%に増えています。プレゼンティーイズムは4.2%から12.2%です。喫煙は35.1%から20.6%へ減りました。女性の健康や、健康情報を理解して活用する力(健康リテラシー)への言及も増えました。一般認定の会社も同じ方向に動いていますが、広がり方は小さめです。メンタルヘルスは毎年最も多い言葉でした。
健康状態の話に加えて、働き方や仕事の質を書く会社が増えています。育児・介護の記述は両群で増えました。2025年認定の調査から、重点テーマの選択肢に育児・介護が加わった影響も考えられます。
喫煙の記述が減ったのは、喫煙対策が重点から外れたためではないと私は見ています。2020年4月に改正健康増進法が全面施行され、職場の受動喫煙対策は多くの会社で当然の取り組みになりました。重点として書くまでもない施策になった可能性が高いと考えます。ただし、記述の増減だけでは、対策を続けているかどうかまでは区別できません。
女性の健康と、仕事と介護・育児の記述の増加は、人的資本開示と関係している可能性があります。女性活躍推進法や育児・介護休業法で公表が義務づけられている会社は、2023年3月期から女性管理職比率や男性の育児休業取得率などを有価証券報告書にも記載しています。改正育児・介護休業法では、介護との両立支援の義務が2025年4月に、育児期の柔軟な働き方の義務が10月に施行されました。ただし女性の健康の記述は、これらの義務化より前から増え始めていました。この関係は今回の集計では確かめていません。
集計は毎年同じ語の一覧で数えました。言葉が出てくるかどうかを数えたもので、取り組みの質は測っていません。
ホワイト500に入る前の年の書き方
2025年認定時の自由記述のうち、経営課題と期待する効果の欄と、重点施策の欄を見ます。翌2026年にホワイト500に入った93法人と、一般認定のままだった1,811法人を比べました。自由記述を比べられた法人の数なので、健康教育の比較とは法人数が違います。同じ傾向は2023年、2024年、2025年に入った群でも出ています。エンゲージメントは2026年分と合わせて4回とも、新規群が12から28ポイント多めでした。
| 要素 | 一般認定の全体 | 偏差値が上位1割の法人 | ||
|---|---|---|---|---|
| 翌年入った (93法人) |
入らなかった (1,811法人) |
翌年入った (69法人) |
入らなかった (127法人) |
|
| エンゲージメント | 60% | 32% | 62% | 54% |
| プレゼンティーイズム | 29% | 12% | 33% | 28% |
| アンケート実施への言及 | 45% | 32% | 48% | 48% |
| 割合の数値の記載 | 97% | 86% | 97% | 96% |
法人数は項目ごとに比べられた法人の数です。上位1割の「入らなかった」は、健康教育の比較(126法人)と1法人違います。
全体で比べると差は大きく、記述の分量も新規群のほうが長めでした。しかし点数の近い会社どうしでは、差の大半が消えました。書き方の違いは、取り組み全体の違いを映している可能性があります。長く書けばよいという結果ではなく、言葉を足すことが認定への近道だとも私は考えません。
エンゲージメントやプレゼンティーイズムを書く会社が増えたことと、その数値を会社どうしで比べられるかは、別の話です。測り方や質問票、対象範囲が会社ごとに違えば、同じ言葉でも数値は横に並べられません。私が各社の公開資料から集めた数値では、プレゼンティーイズムなどの定義が15通りに分かれており、同じ定義で水準を比べられる組は一つもありませんでした。比べられるようになるには、測り方と対象範囲、回答率をそろえて開示する会社が増える必要があります。
この集計で言えること、言えないこと
この集計は、開示に同意した法人だけを扱っています。取り組みに自信のある法人ほど開示しやすい可能性があります。参加率や議題は評価の採点に関わる項目で、ホワイト500に入ったことと機械的に結びつく部分があります。評価の項目と、ここで比べている指標が同じ制度の中にあります。この循環を前提に読んでください。
したがって、取り組みを増やせば選ばれるという因果は示せません。示しているのは、健康アウトカムが改善する会社の特徴ではなく、ホワイト500という制度上の境界を越える会社に見える特徴です。自由記述は語の有無を数えただけで、書いた内容の実行や効果は確かめていません。100法人前後と小さい群もあります。
そのうえで言えるのは、境界の近くでは前年の水準よりもその年の伸びに差が出ていたことです。健康教育では3回の比較とも同じ向きでした。
産業医として最初に確かめること
制度や数字が整って見える職場で、健康管理が本当に機能しているのか。ホワイト500を目指す会社から相談を受けたら、私は最初に三つを確かめます。
- 対象者と参加の数え方 施策が全従業員に届いているか、一部の事業所や職種に偏っていないかを見ます。参加率が高くても、対象が狭ければ届いている人数は少ないからです。
- 経営会議で効果をどう議論しているか 報告の回数より、どの施策がどの経営課題に役立つと考え、続けるかやめるかをどう決めているかを見ます。
- 自社の課題と施策と効果を一続きに書けているか 流行の言葉が入っているかは見ません。課題から効果までが自社の数字でつながっていれば、健康管理が実際に動いている見込みは高いと考えます。
境界の近くにいる会社なら、前年の水準より、その年に何を広げるかを見ます。
集計の方法と出典
集計の方法
2022年から2026年認定の5年分を対象にしました。開示に同意した法人のフィードバックシートから、数値と自由記述を取り出しました。
比べたのは、前年に一般認定だった法人のうち、翌年ホワイト500に入った群と、翌年も一般認定だった群です。参加カバー率は各社の値を出してから群ごとに平均しました。
境界付近の確認では、前年の偏差値が一般認定の中で上位1割(感度確認として上位2割)の法人に絞り、前年の水準と当年の伸びを分けて見ました。
自由記述は同じ語の一覧で毎年数えました。語の有無を数えたもので、文章の質は評価していません。
出典
- 経済産業省「健康経営優良法人(大規模法人部門)認定法人一覧」
- ACTION!健康経営で公開の健康経営度調査フィードバックシートと結果一覧(2022年認定分は経済産業省)
- 改正健康増進法(2020年4月全面施行)、企業内容等の開示に関する内閣府令(2023年1月改正)、改正育児・介護休業法(2025年4月・10月施行)
集計値のみを掲載し、個社の数値や文章は転載していません。観察データの記述であり、取り組みが認定を変える効果を示したものではありません。