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健康経営 データ分析 大規模法人

健康経営のどの施策が、どの勤務実績と対応しているのか

大規模法人約9,800社の公開情報から、施策の記載と実績の組み合わせを確かめる

公開 最終更新 執筆 横川 暢(産業医・gezellig産業医事務所 代表)

このレポートの要点

対象は、しょくばらぼに施策を記述している従業員301人以上の9,824社です。施策の記載と、その施策が本来ねらう勤務実績を組にして調べました。書く量の違いを考えに入れても関連がはっきり残ったのは、家族との両立の記載と男性の育休取得率の組でした。家族との両立の記載には、法定を上回る育児休業などが含まれます。有休の取得促進・残業削減・保育の支援は、書く量を考えると関連が明瞭でなくなりました。有休の取得促進の結果は、公表前の精度確認で見つかった辞書の取りこぼしを直して再計算したものです。一時点の関連を見たもので、施策の効果は示していません。

  • 法定を上回る育児休業の記載がある法人は、書く量を考えても男性の育休取得率が4.70ポイント高い値でした。条件を変えても、この関連は残りました。
  • 有休の取得促進・残業削減・保育の支援は、書く量を考えると、事前に決めた基準を満たしませんでした。
  • +4.70ポイント法定を上回る育児休業の記載がある法人の男性育休率の差(書く量を考えた推定)
  • +0.96ポイント有休の取得促進の記載と有休取得率の差(辞書を直した版、区間は0を含む)
  • 5組中2組事前に決めた判定で「頑健」だった施策と実績の組
  • 9,824社しょくばらぼに施策の記述がある301人以上の法人

測ったものと測っていないもの

この分析が見たのは、施策を公開しているかどうかと、公開された実績との対応です。制度があるかどうかや、実際に使われているかどうかは見ていません。

この分析で測った段階
段階この分析で使った材料と注意
制度の存在測っていない記載がないことは、制度がないことを意味しない
制度の公表測ったしょくばらぼの自由記述に語の辞書を当てて判定した記載の有無
制度の利用・勤務実績一部だけ測った有休取得率・月平均の残業時間・男性の育休取得率。介護・治療・短時間勤務の利用は測っていない
労働者の便益・健康測っていないこの分析からは何も言えない

介護や治療と仕事の両立、短時間勤務の利用は、公開された実績がないため評価できませんでした。

比べた法人と組み合わせ

分析の枠は、しょくばらぼに掲載された従業員301人以上の法人15,374社です。このうち施策の自由記述があり、評価結果だけが公表されている少数の法人を除いた9,824社を主な対象にしました。内訳はホワイト500が410社、一般認定が1,874社、未認定が7,369社などです。健康経営の認定を受けていない法人を多く含みます。

実績を記入していた法人数は、月平均の残業時間が4,771社、有休取得率が3,876社、男性の育休取得率が4,297社です。推定は、それぞれの実績を記入した法人だけで行いました。

施策と実績の組は、推定の前に次の5組に決めました。

  • 有休の取得促進の記載と、有休取得率
  • 残業削減の記載と、月平均の残業時間
  • 育児休業の延長・法定超えなどの記載と、男性の育休取得率
  • 保育所やベビーシッターなど保育の支援の記載と、男性の育休取得率
  • 家族との両立の記載の種類数と、男性の育休取得率

最後の種類数は、育児・介護・治療との両立にかかわる8つの種類のうち、記載が見つかった種類の数(0〜8)です。種類の例は、育児目的の短時間勤務・介護休業の延長・看護休暇の拡充・配偶者の出産休暇などです。この8種には、上の組で使う育児休業の延長・法定超えと保育の支援も含まれます。企業が持つ制度の総数ではありません。

方法は、業種・規模・地域・上場の有無をそろえた回帰です。書く量(文字数)を考えない推定(L0)と、考える推定(L1)の両方を主な結果にしました。文字数には書く量と制度の豊富さの両方が含まれるので、二つの推定のどちらか一方だけを正しいとはしません。

判定の言葉も推定の前に決めました。L0とL1の両方で、多重比較の補正後のpが0.05未満かつ同じ向きなら「頑健」とします。片方だけで満たせば「仕様依存」、両方とも満たさなければ「判定不能」です。「頑健」はこの規則での呼び名で、どんな条件でも結果が変わらないという意味ではありません。

施策の記載と実績の対応

書く量を考えても関連が残ったのは、家族との両立の記載と男性の育休取得率の組でした。「頑健」となった2組のうち、家族との両立の種類数には、もう一方の組で使う育児休業の延長・法定超えの記載も含まれます。この2組は説明変数の一部が重なり、独立した二つの裏付けにはなりません。

施策の記載と、対応する勤務実績の差(元の単位、95%信頼区間)
組書く量を考えない推定(L0)書く量を考えた推定(L1)判定
有休の取得促進→有休取得率2.68ポイント高い(1.77〜3.60)0.96ポイント高い(−0.11〜2.03)仕様依存
残業削減→月平均の残業時間1.05時間少ない(0.50〜1.61時間少ない)0.48時間少ない(1.08時間少ない〜0.12時間多い)仕様依存
育児休業の延長・法定超え→男性の育休取得率8.94ポイント高い(6.24〜11.65)4.70ポイント高い(1.89〜7.52)頑健
保育の支援→男性の育休取得率7.23ポイント高い(4.52〜9.94)2.65ポイント高い(−0.20〜5.50)仕様依存
家族との両立の記載の種類数(1種類あたり)→男性の育休取得率3.60ポイント高い(2.98〜4.21)1.91ポイント高い(1.12〜2.70)頑健

有休の取得促進は、辞書を直した版での値です。

5つの施策と実績の組について、記載の有無による差(家族との両立の種類数は記載が1種類多い場合の差)と95%信頼区間を、書く量を考えない推定(灰)と考えた推定(青)で並べた図。書く量を考えた推定で区間が0をまたがないのは、法定を上回る育児休業の記載(4.70)と家族との両立の記載の種類数(1.91)。
図1 施策の記載と、対応する勤務実績の差(元の単位)と95%信頼区間。記載の有無による差で、種類数については記載が1種類多い場合の差です。灰が書く量を考えない推定(L0)、青が書く量を考えた推定(L1)。区間は多重比較の補正前の95%信頼区間で、「頑健」などの判定には本文の補正後の基準を用いています。有休の取得促進は辞書を直した版です。図をタップすると拡大して表示します。

L0では、5組とも労働者にとって良い向きの差がありました。L1では、どの組も係数がL0の半分前後に小さくなりました。書く量の多い法人ほど施策の記載が多く、実績も良い傾向があります。そのため、L0の差の大きな部分は書く量の違いと重なっていると考えられます。

L1で基準を満たさなかった3組も、「関連がない」と示されたわけではありません。これらの区間はいずれも、労働者に良い向きの差を多く含んでいます。

公表前に、施策の判定に使った辞書の精度を独立に確かめました。この確認での判定は言語モデルで行い、一部は別系統のモデルでも判定して結果を比べました。人が全件を読んで確かめたものではありません。辞書の結果を伏せて読み直したところ、有休の取得促進の辞書は記載の約半分を取りこぼしていました(感度0.48)。「年次有給休暇の時間単位取得制度」のように年休の語が先に来る書き方や、「計画付与」の言い方などを拾えていませんでした。

取りこぼしを直した辞書で計算し直すと、判定が変わりました。修正前はL1で1.35ポイント高く、補正後のpが0.049で「頑健」でした。修正後はL1で0.96ポイント(−0.11〜2.03)、補正後のpが0.206で「仕様依存」です。L0は修正後も2.68ポイントで、基準を満たしています。

修正前の結果にも、弱さの兆候がありました。他の施策の記載数をそろえると0.51ポイントに弱まり、影響の大きい5社を除くと区間が0を含みました。有報の記載で同じ計算をすると、向きが逆でした。修正後に他の施策の記載数をそろえると、0.15ポイント(−0.94〜1.24)とさらに弱まります。

修正版で計算し直しても、他の4組の判定は変わりませんでした。独立の確認での辞書の感度は、残業削減・法定を上回る育児休業・保育の支援で0.94〜0.97と高い値です。ただし残業削減では、辞書が記載ありとしたものの約6件に1件が、育児中の人の残業免除など削減の取り組みではない記載でした。家族との両立の種類数を構成する8種類すべての精度は、確かめていません。

結果は条件を変えても残るか

法定を上回る育児休業と、家族との両立の種類数は、条件を変えても関連が残りました。

他の施策の記載数をそろえると、L1の推定値は法定を上回る育児休業で3.78ポイント(0.92〜6.64)になります。家族との両立の種類数では1.81ポイント(1.01〜2.62)でした。認定の区分をそろえた推定では、法定を上回る育児休業は4.39ポイントです。男性の育休取得率が100%以下の法人に限っても、区間は0を含みませんでした。家族との両立の種類数から、配偶者の出産休暇などを除いても残りました。

探索的な追加の分析として、書く量を考えた推定(L1)で、推定値を支える向きに影響の大きい法人から順に除きました。補正前の95%信頼区間が初めて0を含んだのは、法定を上回る育児休業で19社、家族との両立の種類数で48社を除いた時点です。

一方で、弱い点もあります。上場法人に限った推定の標本は有休871社、残業1,009社、男性の育休754社です。この推定のL1で区間が0を含まなかったのは保育の支援だけで、法定を上回る育児休業は区間が0を含みました。上場の標本は小さく、主な結果に一般化はしません。

上場法人については、施策の判定を有報の記載に替えた比較もしました。判定には修正前の辞書を使いました。対象は有休875社、残業1,015社、男性の育休758社です。保育の支援だけが、L0とL1の両方で、しょくばらぼ版と有報版のどちらも区間が0を含みませんでした。法定を上回る育児休業と家族との両立の種類数は、L0では両資料とも区間が0を含まず、L1では向きは同じでも0を含みました。残業削減は、両方の資料で向きは同じでしたが、有報版はL0・L1とも区間が0を含みました。有休の取得促進はしょくばらぼ版と有報版で向きが逆になり、有報版の区間は0を含む結果でした。

情報源の差そのものは検定していません。有報側の辞書には、取りこぼしが多い施策があります。独立の確認での感度は有休の取得促進で0.55、残業削減で0.35、法定を上回る育児休業で0.37です。情報源による結果の違いには、記載内容と検出精度の両方が影響している可能性があります。

総合点より施策ごとの情報のほうが実績を予測するか(参考)

この節は、辞書を直す前の判定による参考結果です。その範囲では、施策ごとの記載が健康経営の総合点より勤務実績をよく予測するという証拠は得られませんでした。

この比較は、総合偏差値と側面別の偏差値がそろう認定法人に限っています。対象は残業1,221社、有休1,034社、男性の育休824社です。業種や規模などによる予測に、総合偏差値か施策の記載を足したときの上積みを比べました。3つの実績とも、どちらが上という判定はできませんでした。修正前の辞書による今回の比較では、残業のL0とL1、有休と男性の育休のL1の4つの条件で、総合偏差値と指定した施策の記載のどちらを足しても、予測の上積みはごく小さい値でした。「健康経営が無効だ」という意味ではありません。

この比較は修正前の辞書の判定で行い、修正版では計算し直していません。残業と有休の予測には、有休の取得促進を含む時間や休養にかかわる施策の記載をまとめて使っています。そのため、修正の影響は有休だけでなく残業の予測にも及びえます。対象が認定法人に限られ、点数の幅も狭いので、未認定の法人を含む全体には当てはめられません。

この結果をどう読むか

男性の育休取得率を記入している法人では、法定を上回る育児休業などを記載している法人ほど取得率が高い関連がありました。今回調べた範囲では、家族との両立の公開記載と男性の育休取得率の関連が、比較的一貫していました。制度が本当に法定を超えているかどうかや、利用しやすさまでは確かめていません。

有休の取得促進と残業削減の記載は、書く量を考えると、対応する実績との関連が明瞭ではありませんでした。その理由はこの分析では分かりません。業務量や人員の配置、管理職の行動など、測っていない要因の影響を受けやすい領域であることは考えられます。

実績の有休取得率・残業時間・男性の育休取得率は、健康経営度調査でも同じ量を尋ねている項目です。施策の多くも調査票と重なるので、関連の一部はこの重なりから生じている可能性があります。

この分析で分かるのは公開された記載と実績の関連であり、因果ではありません。「育休の制度を手厚くすれば男性の育休取得率が上がる」とは言えませんし、「有休の取得促進に意味がない」とも言えません。言えるのは、記載の有無や数から職場の実績を推し量るのは難しく、課題ごとに実績そのものを測る必要があるということです。

産業医として最初に確かめること

施策を増やす前に、自社の課題に対して何を測るかを決める必要があります。

  • 有休や残業の課題では制度の有無ではなく、部署ごとの取得率や残業時間の分布と業務量の偏りを測っているかを確かめます。
  • 両立支援の制度では、対象者のうち実際に使った人の割合と、使えなかった理由を把握しているかを確かめます。
  • 介護や治療との両立は、公開された実績がありません。社内で利用件数と相談件数を記録しているかを確かめます。

施策の数を競うより、課題ごとに変化が見える指標を一つ決めて追うほうが、取り組みの手応えを確かめやすくなります。

この分析で言えること、言えないこと

  • 一時点の関連なので、施策の効果は言えません。「取得率が低いので促進策を書く」という逆の向きでも関連は生じます。
  • 辞書で検出した公開の記載であり、制度の存在や利用を表すものではありません。辞書には誤りがあり、有休の取得促進は直した版を使いました。
  • 実績は記入した法人だけです。記入は任意で、記入するかどうかによる偏りは取り除けていません。
  • 実績も施策も健康経営度調査と重なります。
  • 施策の記載と実績の対象年度、対象範囲、分母の対応は確かめていません。男性の育休取得率は算定の根拠が法人ごとに違い、100%を超える値も含むので、同じ定義の利用割合としては比べられません。
  • 介護・治療・短時間勤務の利用は測れていません。

集計の方法と出典

集計の方法
  • 材料: しょくばらぼ(2026年10月8日版)、2026年の健康経営優良法人の認定一覧、健康経営度調査の評価結果とフィードバックシート(2026年)、有価証券報告書(上場法人の比較)。
  • 主な対象: しょくばらぼに掲載された従業員301人以上の法人15,374社のうち、施策の自由記述がある9,824社。評価結果だけが公表されている法人は除きました。
  • 回帰: 最小二乗法、HC3標準誤差、95%信頼区間。施策と実績の5組について、L0とL1それぞれでHolmの方法で多重比較を補正しました。
  • 施策の判定: 語の辞書による決定的な規則で記載の有無を判定しました。公表前に、辞書の結果を伏せた独立の精度確認を行いました。精度確認での判定は言語モデルを用いて行い、一部を別系統の言語モデルが独立に判定して一致度を確かめています。
  • 辞書の修正: 確認で見つかった有休の取得促進の取りこぼしをもとに、その部分の辞書を直しました。修正版の精度(感度0.92)は同じ確認用の標本で測ったもので、楽観的な値の可能性があります。別の標本での確認はこれからです。
  • 予測の比較: 10分割の交差検証を50回繰り返し、法人単位のブートストラップで区間を求めました。再標本化で学習に使える法人が減るため、説明に使う項目の多い施策のモデルが不利になりやすいという限界があります。このため、両者が同等とも優劣が確定したとも言えません。
  • 解析の時期: 先行の分析を読んだ後に設計し、推定の前に主な解析を固定しました。事前登録ではありません。2027年のデータで同じ手順を繰り返す計画を、2026年の結果を見る前に決めてあります。

出典

  • 厚生労働省「職場情報総合サイト(しょくばらぼ)」全件データ(2026年10月8日更新版)
  • 経済産業省「健康経営優良法人(大規模法人部門)」2026年認定法人一覧と、健康経営度調査の評価結果・フィードバックシート(2026年)
  • 金融庁 EDINET API による有価証券報告書(上場法人の情報源の比較)

集計値のみを掲載し、個社の数値は掲載していません。公開された記載と実績の一時点の関連で、施策の効果を示したものではありません。

課題ごとに、何を測れば変化が分かるかを決めます

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