健康経営 データ分析 中小・大規模法人
健康経営優良法人の認定は、実際の働き方と対応しているのか
中小規模と大規模の法人を、厚生労働省の職場情報の公開データで比べる
このレポートの要点
厚生労働省の職場情報総合サイト(しょくばらぼ)の全件データ(2026年10月8日更新版)を使いました。これを2026年の健康経営優良法人の認定法人一覧と照合しました。有給休暇の取得率は、この指標を記入した法人の間で比べました。業種・規模などをそろえても、認定法人の取得率は中小で3.29ポイント、大規模で3.22ポイント高い結果でした。一方、ブライト500とネクストブライト1000、ホワイト500と一般認定の比較では、勤務実績のはっきりした差を確かめられませんでした。ただし、差がないと示したわけではありません。結果を読むときは、どの法人のデータがどれだけ欠けているかを先に見る必要があります。この分析は一時点の公開データの比較で、認定が働き方を変えた効果を示すものではありません。
- 認定の有無の比較では、有休取得率が中小で3.29ポイント、大規模で3.22ポイント高い結果でした。残業時間には差を検出できませんでした。どちらも、それぞれの実績を記入した法人の間で比べた結果です。
- ブライト500とネクストブライト1000の比較では、有休取得率を記入した法人が53社と113社しかありませんでした。この数では、差の有無を判定できませんでした。
- ホワイト500と一般認定では有休取得率が2.39ポイント高く、条件を変えても同じ向きでした。ただし、事前に決めた基準(多重比較の補正後)は満たしませんでした。
- +3.29ポイント中小の認定法人と非認定法人の有休取得率の差(両側300人以下)
- +3.22ポイント大規模の認定法人と未認定大規模法人の有休取得率の差
- 53社と113社有休取得率を記入していたブライト500とネクストブライト1000の法人
- p=0.052ホワイト500と一般認定の有休取得率の差(2.39ポイント)の、多重比較の補正後の値
比べたものと比べ方
しょくばらぼには152,401法人が掲載されています。これと2026年の中小規模法人部門・大規模法人部門の認定法人一覧を、法人番号で結び付けました。比べたのは次の4つの組み合わせです。
| 比較 | 比べる群 | 基準の群 | 規模の条件 | 比べた掲載法人の数 |
|---|---|---|---|---|
| 中小・認定の有無 | 認定法人 | 非認定法人 | 両側300人以下 | 9,151法人と123,095法人 |
| 中小・上位の区分 | ブライト500 | ネクストブライト1000 | 制限なし | 302法人と572法人 |
| 大規模・認定の有無 | 認定法人 | 未認定大規模法人 | 両側301人以上 | 2,765法人と12,369法人 |
| 大規模・上位の区分 | ホワイト500 | 一般認定 | 両側301人以上 | 440法人と2,325法人 |
有休・残業・新卒定着などの勤務実績を記入した法人は、この数よりずっと少なくなります(後述の記入率の表)。開示数と他認定数は、表の法人全体で集計しました。
非認定・未認定の定義は、中小と大規模で少し違います。中小の非認定は、300人以下の法人のうち2021〜2026年の中小規模法人部門の一覧に一度も載らない法人です。2026年の大規模の一覧に載る法人も除きます。大規模の未認定は、301人以上の法人のうち2021〜2026年の大規模・中小のどちらの一覧にも一度も載らない法人です。どちらの群にも、申請しなかった法人・認定されなかった法人・独自に取り組む法人が混ざり、区別できません。
主要5項目として、月平均の残業時間・有休取得率・新卒定着・開示数・他認定数を見ました。有休取得率は、法人が報告した範囲の取得率です。正社員だけの法人も全労働者の法人もあり、範囲は法人ごとに違います。開示数は、定義に合う値が得られた指標の数(0〜6)です。他認定数は、えるぼし・くるみんなど他の制度の認定の記載数(0〜6)で、記載がない場合も未取得とは限りません。このほか、男性の育休取得率と女性管理職比率を探索的に調べました。
方法は、業種・規模・地域をそろえた回帰です。大規模では上場の有無と規模の対数も加えました。ブライト500とネクストブライト1000、ホワイト500と一般認定の比較では、前年(2025年)の認定区分もそろえています。差は95%信頼区間(推定の不確かさの幅)とともに示します。
多重比較の補正は、たくさんの指標を同時に調べたときに、偶然の差を差と見誤らないための調整です。事前に決めた基準は、主要5項目に補正をかけた後の p<0.05 です(ホワイト500と一般認定は推定できた4項目)。この基準で判定したのは、中小の上位区分の比較と大規模の二つの比較です。中小の認定の有無の比較は探索的に扱い、区間を示します。指標の対象年度はそろっておらず、認定と指標のどちらが先かは確定できません。
認定の有無と勤務実績
認定の有無の比較では、中小と大規模で同じ形が出ました。有休取得率・開示数・他認定数には差があり、残業時間には差を検出できませんでした。
中小(両側300人以下)では、認定法人の有休取得率が3.29ポイント高い結果でした(95%信頼区間 1.88〜4.70)。記入した法人は認定側914社、非認定側4,676社です。残業時間の差は月0.08時間(−0.44〜0.61)でした。開示数は0.46項目、他認定数は0.14件多く、どちらも区間は0を含みませんでした。新卒定着の差は1.64ポイント(−0.26〜3.53)で、区間が0を含みました。
大規模(両側301人以上)では、認定法人の有休取得率が3.22ポイント高い結果でした(2.33〜4.11)。この差は事前に決めた基準を満たしました。記入した法人は認定側1,498社、未認定側3,550社です。残業時間の差は月−0.07時間(−0.52〜0.37)でした。調整前の平均で比べると、認定側が1.48時間長くなります。業種や規模をそろえると推定差は月−0.07時間で、差を検出できませんでした。開示数は0.70項目、他認定数は0.38件多く、どちらも基準を満たしました。新卒定着は記入が認定側15社、未認定側68社しかありません。差は4.61ポイント(−5.06〜14.27)で、判断の材料にはなりません。
探索的に見た副の指標のうち、男性の育休取得率は認定側が中小で11.27ポイント、大規模で9.44ポイント高い結果でした。女性管理職比率は、大規模では認定側が1.55ポイント低く、中小では差を検出できませんでした。どちらも補正をかけていない探索的な値です。
開示数と他認定数の差は、情報を開示して他の制度にも参加する法人が健康経営の認定も受けている、という関係を示します。これらは職場の質そのものを測った値ではありません。
上位の区分と勤務実績
上位の区分では、勤務実績の差を確かめられませんでした。理由は中小と大規模で違います。
中小では、ブライト500とネクストブライト1000を比べました。主要5項目の補正後 p はすべて1.000でした。有休取得率の差は4.52ポイント(−2.67〜11.71)、残業時間の差は月1.18時間(−1.51〜3.86)でした。どちらも差の有無を判定できません。新卒定着は記入した法人が17社と39社で、差は3.13ポイント(−8.84〜15.09)でした。判断するには材料が足りません。開示数は−0.10項目(−0.36〜0.15)、他認定数は−0.06件(−0.17〜0.05)でした。
有休取得率を記入していたのは、掲載されたブライト500の302法人のうち53法人(17.5%)です。ネクストブライト1000では572法人のうち113法人(19.8%)でした。補正前の検定で約80%の確率で見つけられる最小の差は、今の標本では有休取得率で約10.27ポイントと概算されます。実務上意味のある差があっても、見逃しうる大きさです。
大規模では、前年の区分をそろえてホワイト500と一般認定を比べました。ホワイト500の有休取得率は2.39ポイント高く(0.50〜4.28)、区間は0を含みません。しかし補正後 p は0.052で、事前に決めた基準にわずかに届きませんでした。残業時間0.23時間・開示数0.14項目・他認定数0.10件の差は、いずれも区間が0を含みます。新卒定着はホワイト500の記入が1社で、推定していません。
有休取得率の差は、条件を変えても同じ向きでした。前年の区分をそろえない比較では2.54ポイント(1.13〜3.95)でした。給与と年齢をそろえた上場法人の比較では3.04ポイントです。有休の対象範囲を正社員に限った法人だけでは1.95ポイントで、区間が0を含みました。なお、前年の区分をそろえるかどうかで問いが変わります。そろえた比較で見ているのは、「同じ前年区分の法人の中で、ホワイト500かどうかの違い」です。
比較の作りも二つで違います。中小はブライト500とすぐ下の区分を、大規模はホワイト500とそれ以外の認定法人全体を比べました。判定できないことや基準に届かないことは、差がないことを意味しません。
データはどれだけ欠けているか
結果の読み方を最も左右するのは、勤務実績を公開していない法人の多さです。
| 部門 | 区分 | 有休取得率の記入率 | 残業時間の記入率 |
|---|---|---|---|
| 中小 | 非認定 | 3.8% | 5.1% |
| 中小 | 一般認定 | 9.4% | 13.6% |
| 中小 | ネクストブライト1000 | 16.5% | 24.9% |
| 中小 | ブライト500 | 15.3% | 25.8% |
| 大規模 | 未認定 | 28.7% | 34.9% |
| 大規模 | 一般認定 | 51.5% | 60.9% |
| 大規模 | ホワイト500 | 68.2% | 76.4% |
分母は、中小では300人以下、大規模では301人以上の掲載法人です。中小の上位区分の比較は規模の制限がなく、記入率は本文の値(17.5%と19.8%)になります。
中小の非認定では、有休取得率を記入している法人が4%に届きません。認定法人ほど実績を記入しています。大規模の有休取得率では、規模や業種などをそろえても記入のオッズが一般認定で未認定の1.90倍、ホワイト500で3.06倍でした。
記入しなかった法人の値を仮定した計算もしました。未記入の法人の値を、規模や業種から予測した値から一律にずらし、差が0になるずれの大きさ(転換点)を求める方法です。非認定側は予測どおりとし、認定側の未記入の法人だけを低くずらしました。この場合、中小の3.29ポイントは3.65ポイント、大規模の3.22ポイントは6.60ポイントのずれで0になります。大規模で差が消えにくいのは、記入率が高く、未記入の法人の比重が小さいためです。未記入の法人の実際の値が予測からどれだけずれているか、そのずれが群の間でどう違うかは、今回のデータでは分かりません。
記入の確率で重み付けしても、有休取得率の差は中小で3.92〜4.63ポイント、大規模で3.41ポイントでした。この重み付けで偏りを補正できるのは、記入するかどうかが観測した属性だけで説明できる場合に限られます。
給与や年齢をそろえても残るか
上場法人に限って、有価証券報告書の平均年間給与と平均年齢を加えました。比べたのは、給与と年齢がそろう同じ上場法人960社です。認定と未認定の有休取得率の差は、2.71ポイントから2.63ポイント(0.89〜4.37)へと、ほぼ変わりませんでした。ホワイト500と一般認定の差も、同じ592社で3.20ポイントから3.04ポイント(0.42〜5.67)でした。
男性の育休取得率の差は8.50ポイントから6.51ポイントに縮みました。女性管理職比率の差は−1.18ポイントから−0.50ポイントに縮み、区間が0を含みました。給与が、認定と実績の両方に影響する別の要因(交絡)なのか、認定の結果として生じた経路(媒介)なのかは区別できません。そのため、どれか一つを「本当の差」とはしません。
給与と年齢は提出会社単体の値です。しょくばらぼの指標と同じ従業員を指すとは限りません。決算期末(主に2025年4月〜2026年3月)としょくばらぼの指標の年度もそろえていません。業績や労働組合の有無など、調整していない要因も残ります。
この結果をどう読むか
認定の有無と有休取得率の対応は、中小と大規模で同じ形で見られました。大規模の有休取得率と残業時間は、健康経営度調査でも回答する指標です。採点への寄与は確かめていません。ただ、認定との関連の一部は、審査で選ばれた結果や評価項目との重なりを反映している可能性があります。
上位区分の比較では、中小は標本が足りませんでした。大規模は、有休取得率で補正前の区間が0を含まなかったものの、事前の基準に届きませんでした。上位の認定の価値を勤務実績で示すには、今の公開データは足りません。大規模の有休取得率は、条件を変えても約2〜3ポイント高い向きでした。この点は今後のデータで確かめる価値がある手がかりです。
残業時間に差が見えないことは、認定法人の残業が少ないことの証明でも、認定が残業と無関係であることの証明でもありません。この分析からは、認定や健康経営が有休取得率を上げたとも、上位区分が働き方に差を生まないとも言えません。
産業医として最初に確かめること
認定の取得を目的とする支援と、健康や就業上の課題を改善する支援は、測るものが違います。
- 自社が改善したい勤務実績(有休・残業・育休など)を、認定とは別に、自社の範囲と定義で毎年測っているかを確かめます。
- 公開している指標の対象範囲(正社員だけか、全労働者か)と年度を、社外に説明できるかを確かめます。
- 上位の認定を目指すとき、評価項目の改善と職場の実績の改善を分けて目標にしているかを確かめます。
認定は取り組みを始めるきっかけとして使い、成果は自社の実績で確かめるのが確実です。
この分析で言えること、言えないこと
- 掲載も記入も企業の選択で、結果は「掲載し、その指標を記入した法人での差」に限られます。
- 未記入の法人の値の仮定しだいで、差は0になりえます。
- 健康経営度調査と重なる指標があり、差の一部は審査による選抜や評価との重なりを反映しうるものです。
- 一時点の記録で、認定と指標の前後は確定できず、因果は言えません。
- 基準を満たさないことは、差がないことを意味しません。
- 有休取得率の対象範囲は法人ごとに違います。
- 中小と大規模の差の大きさは、母集団も記入率も違うので直接比べません。
集計の方法と出典
集計の方法
- 材料: しょくばらぼのCSV一括ダウンロード(2026年10月8日更新版、152,401法人)と、2026年の中小規模法人部門・大規模法人部門の認定法人一覧。非認定・未認定の判定には2021〜2025年の一覧も使いました。
- 結び付け: 法人番号で結びました。
- 回帰: 最小二乗法。中小は業種・規模区分・地域を、大規模はこれに上場の有無と規模の対数を加えて調整しました。上位区分の二つの比較では、前年(2025年)の認定区分も調整しました。
- 標準誤差はHC3、95%信頼区間は係数±1.96×標準誤差です。比べる2群のどちらかが15社未満なら推定していません。
- 多重比較: 比較ごとに別々に、主要5項目にHolmの方法で補正をかけました。比較をまたいだ全体の誤り率は制御していません。確認的な判定は、中小の上位区分の比較と、大規模の二つの比較です。ホワイト500と一般認定は、推定できた4項目に補正しました。中小の認定の有無(両側300人以下)は探索的に扱いました。
- 記入率: 分母は、中小では300人以下、大規模では301人以上の掲載法人です。
- 未記入の感度: 記入しなかった法人の値を規模や業種から予測した値から一律にずらし、差が0になるずれの大きさ(転換点)を求めました。記入の確率による重み付け(IPW)も行いました。
- 給与と年齢: 上場法人について、金融庁のEDINET APIから有価証券報告書の平均年間給与(提出会社単体)と平均年齢を取りました。200万円未満と3,000万円超は単位の誤りとみて欠損にしました。
- 検出できる最小の差は、補正前の両側5%検定で検出力80%となる差の概算です。
- 大規模の認定一覧は2026年5月12日更新版を使い、合計は3,761法人です。2026年3月10日版の一覧は3,765法人で、5月の更新で一般認定の4法人が一覧から外れていました。外れた理由は一覧に書かれていません。
出典
- 厚生労働省「職場情報総合サイト(しょくばらぼ)」全件データ(2026年10月8日更新版)
- 経済産業省「健康経営優良法人」2026年認定法人一覧(大規模法人部門・中小規模法人部門)と2021〜2025年の一覧
- 金融庁 EDINET API による有価証券報告書の平均年間給与・平均年齢(提出会社単体、上場法人の追加分析)
集計値のみを掲載し、個社の数値は掲載していません。観察データの記述であり、認定が働き方を変える効果を示したものではありません。